厚生労働省が2018年に公表した「生活のしづらさなどに関する調査」※1によると、医師から発達障がいと診断された人数は48万1千人、内、障害者手帳所持者は76.5%、障害者手帳非所持者は21.4%と推計されています。
そんな中、「学生生活が思うようにいかない」「人と同じように就職活動ができない」といった悩みを抱える学生や、自分でも気がつかない内に取り残されてしまうケースが増え、学生へのサポートや就職支援に動き出す大学が増えています。
一方で、「症状がわかりにくく支援が難しい」「適切なサポートがわからない」「就職活動をどう支援したらいいのか・・・」など、学生との向き合い方に悩む大学も存在します。
そういったさまざまな課題やお悩みを抱える大学が参加した公益財団法人東京しごと財団主催の大学職員向けセミナー『発達障がい傾向のある学生への就職支援(12月13日)』に、障がい者雇用推進に取組む企業代表としてKDDIエボルバが登壇しました。
オンラインとリアルのハイブリットで開催したセミナーには、都内23大学の学生課や支援室の職員の方々が参加。
本ブログでは、当社講演より、参加した皆様の関心度が高かった「発達障がいの特性と学生生活・職業生活の準備」の一部をご紹介します。大学職員や関係者、学生、保護者の皆様に役立てていただけましたら幸いです。
■発達障がいの特性と大学生活の困りごと
発達障がいのある方は、得意・不得意や、過ごす環境、周囲の人との関わりのミスマッチから社会生活が困難になることがあります。「空気が読めない・相手や状況・変化に合わせることが苦手」な自閉症、アスペルガー症候群を含む広汎性発達障がい(自閉症スペクトラム/ASD)、「物忘れが多い、集中力が続かない、感情のコントロールが苦手」な注意欠陥多動性障がい(注意欠如・多動性障がい/ADHD)、「読む・書く・計算が極端に苦手」な学習障がい(限局性学習障がい/SLD)が代表例※2としてあげられます。
高校までは、決められた学習カリキュラムや時間割、教員による課題提出の管理、同じ授業を受けて行動を共にするクラスメイトとのコミュニケーションで学生生活を違和感なく過ごした方でも、大学に入ると環境はガラリと変わります。これまで問題なかったことが突然うまくいかなくなったり、誰にも相談できずに困りごとを抱えている学生もいます。
例えば、当社で活躍する社員にヒアリングした「大学生活で困ったこと」では、
- 講義ごとに入れ替わる人の輪に入れず人との関わりが苦手になって友達ができない
- 沢山ある履修科目から単位取得に必要な必須・選択科目や前期・後期の組立てを自分で決められない
- レポートや卒論のようにテーマを選ぶ・情報を集める・構成を組立てるなど自己裁量が多いものが苦手で提出できなかった
- 見通し・スケジュールが立てられずに留年の危機になった
- 説明することが苦手で、相手からの返答への理解も難しく、相談できなかった
- 大学生は「勉強もサークルもバイトも頑張る」というイメージを決めつけてしまい、優先順位をつけられなかった
などが挙がりました。
大学側から相談室があることを積極的に呼びかけたり、発達障がいのある方が苦手とする情報やスケジュールの整理を一緒に取組むサポートが、学生の支えになります。ぜひ、発達障がいのさまざまな特性や個性を知り、理解することで学生から相談しやすい環境につなげていただければと思います。
■職業生活の準備「自己理解」「視覚情報」「習慣・癖をつける」
「就職活動や社会人として働くための準備」のサポートも、大学でできることがあります。
- 視覚情報で伝え、理解を促すサポート
発達障がいの特性は視覚優位傾向があるため、口頭ではなく、「いつまでに・なにをするか」のTODOを、「視覚情報=文章で伝えて理解を促し、繰り返すサポートで、理解が進むようになっていきます。また、文章を伝える際には、メールではなく、「紙」で行う工夫をお勧めします。例えば、お互いのやりとりが複数発生したメールは、やりとりを順番に時間軸で並べて結果・結論を導く・理解することが難しい(並列で捉えてしまい結論がわからない)ケースがあるためです。
また、就職活動や面接、社会人になってから働くときに役立つ「習慣・癖をつける」サポートも重要になります。
- 自分から人に相談する、確認する習慣
- タイミングを決めて進捗状況を提出先に報告する習慣
- 面談や相談の前に、自分が伝えたいことを自分で整理する習慣
- 面談や相談をした内容から必要なことをメモする習慣
最初は苦手なことが多い学生もいらっしゃると思います。
人に相談できない方には学生課や相談室に呼んで話を聞くことから始めたり、相談内容を事前に整理しやすいようにテンプレートを渡しておいたり、本人と一緒にメモを確認して「この書き方だと後からわからないかも?」「あの話、メモを忘れてるよ?」とサポートを繰り返すことで、習慣・癖になり、本人にとってはできることの安心や自信につながっていきます。
そして、一番大切なのは「自己理解」です。
- 自己理解を促すサポート
人と関わりながら働くためには、自分の特性・個性を受入れて、自分のできること・できないこと・苦手なことを理解すること、苦手なことはどんな工夫・対処・配慮があればできるようになるかを理解し、周囲に伝えられる力を身につけることが重要です。「どんな工夫が必要か」を本人が考えて見つけ、相手に伝える力を育てるサポートによって、就職後に、同僚との関係や仕事のトラブルを回避できます。
今回の講演では、就職活動で一般枠・障がい者枠のどちらで応募をするかを本人とどのように決めていくか、障がい者枠で応募する場合は配慮事項をどこまで企業に伝えるか、またその伝え方など、休憩時間も多くのご質問・ご相談をいただき、具体的に動いていらっしゃる大学が多いと感じました。
■KDDIエボルバのダイバーシティについて
当社は、年齢や国籍、障がいの有無にかかわらず多種多様な個性や価値観をもつ全ての社員がイキイキと働いて共生する職場を目指したダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。500名以上の障がいのある社員が活躍している当社では、障がいのある方は、誰にもある個性、得意・不得意をもつ「隣にいる人」です。
誰もが尊厳をもち、誇りをもって生きていける「ふつう」の社会が広がって欲しいという東京しごと財団とKDDIエボルバの想いを語り合った「障がい者雇用の今と未来を考える」対談も公開していますので、ぜひご覧くださいませ。
- 1. 厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」
調査結果:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_c_h28.pdf
同調査は、令和4年度の調査・公表が予定(調査12月、公表2023年4月)されています。詳細はこちら。 - 2.発達障がいの特性の理解には、厚生労働省の「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座」サイトが参考になりますので、ご紹介いたします。
(特性の代表例:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/e-learning/hattatsu/characteristic.html)