これまで2回にわたりご紹介してきたアルティウスリンクの特例子会社「株式会社ビジネスプラス」の取り組みとスタッフの活躍。最終回は、スタッフのアイデア・創意工夫を取り入れて、レザークラフト製品や、紙漉きで製作したカレンダー、チャームストラップ等のアクセサリーを手作りする製作グループを紹介します。
製作グループで働くスタッフの意欲とアイデアは、受け取った人に「喜んでもらいたい」「笑顔にしたい」というスタッフ達の真心から生まれています。そして、創意工夫は、知的に特性があるスタッフを積極雇用するビジネスプラスで働く管理者や援助者が「質を重視しながらも誰もが作り手になれる方法」を目指して試行錯誤を繰り返し、手順の検討・検証を積み重ねる中で見出された“匠の技”です。
今回の「製作編」では、そんな製作現場で活躍するスタッフ達が一つひとつ手作りしている商品とともに、製作の裏側をお届けします。
連載vol.1 清掃編 ~スピードと品質を兼ね備えたプロ集団
連載vol.2 喫茶編 ~“できない”を“できる”に変えていく
製作グループが大切にしていることは、『本人の強みと創造性を生かして』『ビジネスシーンで使えるグッズ』を『手作り』で製作し、グループ会社を中心に、社会で働く人々に愛される製品を生み出していくこと。さらに、持続可能な社会を目指し、リサイクルにこだわった材料選びと、完全受託生産による廃棄ゼロに取り組んでいます。
■強みを生かしたクオリティの高い商品を真心で包む
製作グループのスタッフは、「自分の力を伸ばす努力」を目標に掲げて、日々、品質の高い商品を目指した製品づくりの練習を行い、スキルアップを目指しています。そして、個々の強みを生かし、芸術的な才能を持つスタッフは年賀状デザインに向けた独創的なちぎり絵や絵画を創作し、細かな手作業をルーティンワークとして黙々と行うことが得意なスタッフは商品パーツや試作品を作り、複雑な製作工程のものや細かな技巧が必要な製作物は熟練のベテランスタッフが担当することで、スタッフ一人ひとりが強みを生かして活躍の場を広げています。
<左:干支「辰」をモチーフにしたちぎり絵の下絵描き、中央:2021年の年賀状に選ばれた作品、左:手編みの布草履・スリッパ>
<左:ビジネスシーンで利用できる革小物製品、右:革を編み込んだ小物入れ>
こうしたスタッフの活躍によって製作した商品には、みんなの想いが込められています。
「卓上カレンダー」の例では、ストラップとして活用できるチャームと、「いつもありがとう」と印字したしおり、ミニ折り鶴を付属しています。これは、会社で使う鍵や小物類に付けたチャームを見たとき、手帳や本を開いてしおりを目にしたとき、デスクや引き出しから折り鶴が顔を出したときに、仕事の疲れが少しでも癒されて笑顔になってほしいと考えたスタッフ達のアイデアで、カレンダーを受け取った人たちに感謝の気持ちを届けたいという真心が詰まっています。
そして商品に一切の妥協をせず、クオリティの高い商品を届けるという強い気持ちを支えているのは、受け取った人たちの喜ぶ姿。カレンダーの付属品ひとつとっても、その想いは同じです。例えばチャームは、2cm四方の和柄の小さな色紙をひし形立体造形に折り込んで作ったパーツ5つを連ねたものや、ビーズを編み込んだミサンガで、繊細さが求められる作業。高品質な完成品にむけて日々練習するスタッフもいます。
■匠の技は「効率化」と「品質」の追求で生まれる
製作グループでは、知的の特性があるスタッフ達が作業をしやすくするために、商品の製作からパッケージ封入までの作業の見直しを毎年行い、製作工程を減らして効率化を図っています。あまり大きな変化があるとスタッフが適応できないケースもあるため、スタッフの負担を減らし、安全を確保する最善策を社員が製作や封入作業を繰り返しながら考え、使う道具や、右手と左手の動き、作業前に準備する材料の配置まで細かく検証を重ねて可視化しています。
――(札幌事業所 札幌中央 製作グループ長 山内 朗裕さん) ときには大きな変更をすることもあります。例えば、以前は卓上カレンダーに組み立てて使える紙のフレームを一部に採用していましたが、直線以外の複雑なカット作業や、フレームのデザイン考案がスタッフには難しく、負担感がありました。そこで3年前に木製スタンドの仕様変更をしてスタンドの形状で材料を仕入れることで「刻印を押す」ステップのみになりました。
< 左:封入作業の工程検討、右:カレンダー用木製スタンド >
その卓上カレンダーは、牛乳などの紙パックを再利用して紙漉きで作った紙に印刷しています。
――(山内さん) 紙パックのコーティングが少しでも残っていると印刷するときにインクが弾かれてしまうため、丁寧に手作業で剥がしてモレが無いか検品。パックの裁断は、ハサミで行うと圧を加えたところが固くなって水に溶けにくくなるためシュレッダーでマイクロカット。コーティングを剥がす作業では、「自分の力を伸ばす」努力で熟練度をアップさせて、「水に浸してふやかす」工程なしにそのまま綺麗に剥がす職人技を見せるスタッフもいます。
紙の仕上がりは、とても紙漉きとは思えないほどの均一な薄さと滑らかさでムラがありません。
しかし、製作をスタートした10年前は、簾(すだれ)を敷いた手漉き枠を揺らすだけでは、紙の厚さにムラがでてしまい、簾の跡も紙についてしまうなど品質に課題があったといいます。
――(山内さん) 札幌よりも先に新宿事業所で紙漉きを始めていたので教わり、そこから3年をかけて「誰でもできるようになるにはどうしたらいいか」を考えました。最初は難易度を下げるためにハガキサイズからスタートして、アイロンでプレスする方法を採用しましたが、カレンダー印刷時に厚みやムラが原因でプリンターが故障しがちになってしまいました。そこで、薄く均一な紙を作ろうと道具から見直し、今は目の細かいメッシュを手漉き枠に敷いています。水はけがよく、紙にメッシュの跡がつかず、品質の高い均一の紙ができあがります。手漉き枠もA3サイズの用紙が製作できる大きさのものに切替ました。
< 紙漉きの一部プロセス:材料を溶解→紙漉き→ローラーで追加脱水→乾燥板に貼付け >
――(山内さん) 工程も見直しました。裁断紙を溶解する作業では、通常は水だけでミキサーで撹拌するところに糊も入れて固まりやすくする工夫をしたり、紙漉き後の乾燥前に追加脱水のプロセスを取り入れたり。撹拌から乾燥まで全13工程を専属スタッフで行っています。些細な手首の動きの違いや邪念があると失敗してしまうので、作業場には担当スタッフのみが入り、作業中は声を掛けないなど集中できる環境を整えています。
その結果、A3サイズの用紙を月1,500枚製作、カレンダーを年間1,000セット以上、2024年のカレンダーは1,500セット生産するまでに!
製作グループの商品は、お客様企業やお取引先様へのご挨拶回り用にカレンダーを、レザークラフトや小物類はノベルティグッズとして、アルティウスリンクとグループ会社に販売しています。
レザークラフトのカードケースや革小物は、入社記念品として受取った新入社員たちから「革なのに軽くて使いやすい」「大切に使っている」と広く愛されています。
カレンダーは、受託生産とはいえ製作できる数に限りがあることから、レアな限定品ともいえる商品です。お客様企業やお取引先様のお手元に届いていらっしゃいましたら、1年間、オフィスやご家庭でぜひご活用をくださいませ。
アルティウスリンクとビジネスプラスは、これからも障がいの種類に関係なく活躍できる共生社会(ノーマライゼーション)※1に貢献する企業を目指して、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進するとともに、スタッフの活躍や職場の取り組みを発信してまいります。
- 1.ノーマライゼーション:厚生労働省が提唱する「障がいのある人と障がいのない人と同等に生活し、ともにいきいきと活躍できる社会を目指す」理念のこと