障がい者雇用推進の現場では「キャリア支援」が課題になるケースがあります。これは、得意・不得意や、特性に合わせた勤務シフト、仕事の進め方、業務分担、合理的配慮などの工夫が必要となり、企業の人材育成・キャリアアップ・ステップアップ制度をそのまま適用することが難しい背景があるためです。
「キャリア支援」の根底にあるのは、「意欲的に長く働き続ける」ことです。この基本の考え方を取り入れたアルティウスリンクの障がい者雇用専門部署である事務サポートユニットでは、難易度ごとに業務を分解してスタッフが成長を実感できるステップアップの仕組みづくりや、オリジナルの研修・全体ミーティング開催による人材育成、『障がいのある先輩スタッフが新人を育成する「チューター制度」』を構築することでキャリアを支援しています。
今回のブログでは、事務サポートユニット(以下 ユニット)が新たに取り入れた『ジョブチューター』について、その役割と成功の裏側を、スタッフの声・仕事ぶりとともに紹介します。
■得意を生かして成長・活躍する「ジョブチューター」
『ジョブチューター』は、「チューター制度」の導入によってチューター自身の成長と、ユニット内のスタッフ達の意欲やコミュニケーションに好転がみられたことに着眼して、ステップアップや風土醸成に「役割」が良い影響を及ぼすと取り入れたオリジナル施策です。
本人が得意で自信を持っている業務をスポット的に後輩スタッフに教える役割を『ジョブチューター』と命名し、業務の目的や正しい作業手順・ポイントを後輩スタッフが習得できるようにサポートしています。2023年7月にトライアル運用を開始、12月に正式稼働を迎え、これまでに7名が経験しています。
得意な領域の業務を教える『ジョブチューター』はスタッフ達が取り組みやすく、達成感や意欲につながっています。実際に、ジョブチューターを経験したスタッフからは、「言い方や説明の順番が伝わりやすいかを考えるようになった」「ルールを曖昧にしたまま放置しないようになった」「作業を見守り、困っていそうなときにアドバイスするやり方など、相手のためになる教え方を考えるようになった」など、変化を感じる声があがっています。
■成功の裏側・「教える」「教わる」スキルを組織全体で伸ばす
<左 事務サポートユニット長 村上さん、右 事務サポートユニット 前島さん>
――(事務サポートユニット長 村上さん)障がいのあるスタッフ達で運営するユニットで “人に教える”ことは、相手の特性を理解して、相手の知りたいことや質問の意図は何かを確認しながら、相手が理解できるコミュニケーションをとる必要があります。『ジョブチューター』を担うスタッフ達のメンタルの揺れなどに配慮して、教える側だけではなく、教わる側も含めた両方のコミュニケーション力を底上げする必要があると考えました。
――(事務サポートユニット 前島さん)コミュニケーション力は、思いやりをもった風土醸成にもつながると考えました。ユニットでは、アルティウスリンクの企業活動に関わる事務業務を担当していますが、伝える側と受け取る側の意識が一致していないと品質や納期に問題が生じます。でも、それはお互いが完璧を求めずに認め合って補完し合う心がけで回避できるもの。その心構えと思いやりの根っ子にあるのがコミュニケーション力だと思います。
そこで、ユニットでは、スタッフ全員向けに、“きっとこうだろう”という思い込みを持たない、理解する姿勢を示す、感謝を忘れずに伝えるといった「教わる心得」や、教わる前に業務マニュアルや作業に必要なアイテムを手元に揃えておく、メモを取る習慣を身につけるといった「教わる行動」の基本を整理したガイドブックの作成・配布、「相手に伝わる話し方」の勉強会を開催しました。
<“教わる心得・行動”も含めたガイドブック「ジョブチューター活動の心得」/スタッフ全員に配布>
――(前島さん) 勉強会は定期開催している全体ミーティングで行い、聞き手によって理解の差がでたり、話が伝わらなかったりする原因を伝言ゲームでロールプレイングしながら自分たちで考えるワークや、 “イメージを言語化”することで伝える情報量や順番を理解するワーク、お互いの認識にズレが起きないように“必要な情報を質問して確認する”ワークを行いました。
“必要な情報を質問して確認する”ワークの例では、
- 「あれって今日中に入力できるかな?」と聞かれたら、「“あれ”の正体(What)」を確認する
- 「今から社内便を送りたいのですが、明日届きますか?」と問合せを受けたら、「どこに(Where)」「何個(Many)」を確認し、さらに、相手が希望する優先事項が社内便ではなく “明日着”であれば宅配便の利用をお勧めすることも考える必要があるため、「どうやって送るか(How)」を確認する
など、より実務で発生しうる事象を取り入れた工夫をしています。
その結果、『ジョブチューター』と教わる側のコミュニケーションだけではなく、ユニット全体で伝え方の成長や、必要な情報(5W1H)を積極的に確認する姿が増え、これまで以上にコミュニケーションの活性化が進んでいます。
【インタビュー】ジョブチューターの仕事と成長
初めて行う業務ではジョブチューターが付いて丁寧に教えています。参考資料や図書もさりげなくお知らせする『ジョブチューター』の存在は、スタッフ達の「わからないときは質問すればいいんだ」という光と安心感につながっています。そんな『ジョブチューター』にインタビュー!!
ユニットの共通業務をマルチにこなしながらも、PhotoshopやIllustratorでデザイン業務を担当する本庄さんは、「立場の変化を感じたことで、より自分の苦手を意識した仕事の進め方を今まで以上に考えるようになりました」と言います。
――(本庄さん) 物事を順序だてて伝えるのが下手だなと思っていたので、質問の内容を一通り聞いてからこちらからも質問を投げかけて確認して、なるべく相手の意図や求めていることに沿った答えを提供するようにしています。難しい質問の場合は、自分の考えだけで回答しないように心がけています。
<左:ジョブチューター本庄さん、右:本庄さんがデザインする“グッドコメントカード”※1>
圧着はがき・名刺・社用封筒・パンフレット・ポスターなどの印刷や、梱包・発送業務を担当するHさんは、教わる側がわかりやすく覚えやすい教え方の流れを意識しています。
――(Hさん) 人に説明するならどういう言い方や順番がわかりやすいかを考えるようになりました。モノを扱う業務が多いので、最初に作業の目的や完成形までの全体感を伝え、次に作業を行う順番に沿って説明して、教わる側が後から手順を復習できるようにマニュアルのどこに記載があるかを伝える工夫をしています。
<社用封筒の印刷を教えるジョブチューターHさん>
社員退職時の返却物や、通勤手当のシステム入力・発送のダブルチェック業務を担当する石浦さんは、教え方を管理者と振り返ることで成長をしています。
――(石浦さん) 思いもしない質問を受けたときや、緊張してどう教えたらいいのか焦ったときは「ジョブチューター活動の心得」を開いて気持ちを落ち着かせています。月1回の業務習得面談で、ちゃんとジョブチューターをできているのか管理者に確認して、“見守る姿勢で教えているのがいいよ”、“わからないときは私たちと確認すればいいよ”と一緒に振り返ることがちょっとずつ自信につながっています。
<ジョブチューター石浦さん 面談風景>
入力や発送業務を担当する茜谷さんは、質問してもらえた時に「質問しやすい対応ができているのかも、信頼されているのかも」とジョブチューターとしての喜びを感じています。
――(茜谷さん) ジョブチューターをする前は、誰かに仕事を依頼すると“自分でやればいいのに”と思われるかもしれないとネガティブな感情があったけれど、実際はそんなこと全くないと気づきました。教えるときは、急かさないことや、ミスを即座に指摘せずにどうしてミスが起きたのかを考えてから話をするように工夫しています。
<入力業務を教えるジョブチューター茜谷さん>
他のジョブチューター達からも、「ユニット内で優しい対応や言葉遣いを心掛けて相談しやすい環境づくりを意識するようになった」「自分の普通が相手の普通じゃないと思うことができて、人に対して寛容になってきた」「相手の特性を考えながら臨機応変に対応できるようになってきた」と、成長を感じられる回答がありました。
■小さな自信を蓄積・次の挑戦に進む勇気を育む
――(前島さん) これまで“人に教える”経験がなかったスタッフ達なので、言葉の選び方や教え方を少しずつ学んでいます。本人の得意な1つの業務にフォーカスしたことで、作業の目的や手順をしっかりと伝えることができ、相手に合わせた対応や、教え方の工夫を自分で考える姿は頼もしさを感じます。
――(村上さん) 『ジョブチューター』を経験することで“教える・説明する”という成功体験が積み上がり、みんな、小さな自信の蓄積につながっていると感じています。「これができた」から「あれもできるかも」と自分の力を信じて、次の挑戦に進む勇気を育んでほしいと思います。そのために、これからも得意を生かして活躍するスタッフを増やす取り組みを考え、意欲的に働き続ける職場づくりを目指していきます。
アルティウスリンクは、今後もDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進するとともに、スタッフの活躍や職場の取り組みを発信してまいります。
- 1.グッドコメントカードは、事務サポートユニットのオリジナルの取り組みで、スタッフ達がお互いに賞賛・感謝を送り合うメッセージボードです。1か月ごとに刷新し、〇〇さんのここがすごい!こんな親切なところを見かけたよ!こんなことをしてもらったよ!ありがとう!というメッセージで溢れています。